人気ブログランキング | 話題のタグを見る

「真実」と「偏見」のパラドックス

パラドックスparadoxとは・・・
一見すると筋が通っているように思えるにもかかわらず、明らかに矛盾していたり、誤った結論を導いたりするような、言説や思考実験などのこと。 (by Wikipedia
1971年にニューヨークのユダヤ美術館で開催された回顧展をユージン・スミスは
「Let Truth Be the PreJudice(真実を偏見となせ)」と題しました。
彼はこのタイトルについて、語っています。
「反語的に使った言葉です。人間はだれでも、偏見をまぬがれることはできない。全ての人間がなんらかの偏見を持っている。私もそれから自由ではないでしょう。しかしせめてこれを真実に近づけたい、そう願うからです。・・・写真家の心が十分に深められてさえいれば、どのようなスタイルであれ、物の本質をつかみ出すことが出来る。私が深い関心を持っているのは、写真家の内面、品性なのであり、重い責任を伴わないで対象に向かうならば、偏見にふりまわされることになってしまう『真実こそ我が友』ではなく『偏見こそ我が友』になってしまうのです。」
同回顧展の日本開催時は、翻訳して「真実こそ我が友」でした(^^;
そして、1975年に写真集「MINAMATA」の序文にはこう記しています。
「これは客観的な本ではない。ジャーナリズムのしきたりからまずとりのぞきたい言葉は『客観的』という言葉だ。そうすれば、出版(言論)の『自由』は真実に大きく近づくことになるだろう。そしてたぶん、『自由』は取り除くべき二番目の言葉だ。この二つの歪曲から解き放たれたジャーナリストと写真家が、その本物の責任に取り掛かることが出来る。」
「ジャーナリストは客観的であらねばならぬとは、よく耳にする言葉だが、しかし、責任あるジャーナリストは、責任ある裁判官と同様に『客観性』の神話から脱却しなければならない。」(アサヒカメラ 1972年)

「カメラはものを見、かつ考える人間の為の道具である。人間の支配を受けず、また人間の力を借りないで写された写真を、私はまだ見たことがないのだ。」(アサヒカメラ 1962年)

「・・・スミスはその生涯で最後の作品といえる「水俣」では、その表現の質を変化させる。それはスミスがそれまで言ってきた、自身が『真実』と考えるものを写真で表すのではなく、普遍的な人間の存在によって『真実』を浮き彫りにすることに臨んだのである。・・・スミスにとっての『真実』とは、どのような状況下にあっても保たれなければならない人間の尊厳であり、生命ある限り生き続ける人間そのものであったのである。」(by 岡塚章子 元東京都写真美術館学芸員 現東京都庭園美術館学芸員)

真実と偏見のパラドックス』とは、写真集の目次の一番目に載っていた岡塚章子氏の見出しです。
従軍中に日本軍の迫撃砲を被弾し生涯その傷に苦しめられたといいます。
チッソ工場の取材中に従業員から暴行を受け片目を失明しつつも撮影の意欲を失うことが無かったというユージン・スミスが、その6年9ヵ月後(亡くなる前年)脳卒中で倒れた時のエピソードを岡塚氏はこのように書いています。
「・・・ベッドから車椅子に移りたいというスミスを赤子のように抱き上げた。その時スミスは自分を「智子のようだ」と言ったという。彼の頭の中には母親に抱かれる智子の図と赤子のように抱かれる自身の姿が重なったに違いない。サイパンで兵士が救い上げた赤ん坊へのスミスのまなざしは、「水俣」で智子を見るまなざしへとうつり、そしてついにはスミス自身を撮る者から撮られる者へと帰一させたのであった。」
・・・感動しました(@@)
この本を貸してくださった方にとって、どんなに大切な本であるかが、読み進むにつれ私にも理解でき・・・
今は、もう手に入らないこの本を、よくぞ貸してくださったと頭が下がる思いです。
「真実」と「偏見」のパラドックス_e0090584_533868.jpg


4月から、NHKは国民の信頼を回復する為に「変わろうとしている」というアピールを毎日流しています。
どう変わろうとしているのか?
けっして大きな力に迎合して欲しくないと祈ります。
朝日新聞の宣伝には「ジャーナリスト宣言」というテロップが使われています。
政治が今「真実」ではなく、「偏見」の道を進もうとしているような気がしてなりません。

「責任」があるのは、ジャーナリストや写真家だけ、もちろん政治家だけではなく、きっと私達ひとりひとりにもあるのです。
by hontou-no-koto | 2006-04-09 03:08 | せいじ


「ほんとうのこと」サイト管理人のつぶやきblogです。


by hontou-no-koto

S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31

カテゴリ

全体
日記
映像
音楽
せいじ
環境
原発
未分類

以前の記事

2014年 12月
2014年 01月
2013年 12月
2012年 10月
2012年 09月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 05月
2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 12月
2008年 11月
2008年 09月
2008年 08月
2008年 07月
2008年 06月
2008年 05月
2008年 04月
2008年 03月
2008年 02月
2008年 01月
2007年 12月
2007年 11月
2007年 10月
2007年 09月
2007年 08月
2007年 07月
2007年 06月
2007年 05月
2007年 04月
2007年 03月
2007年 02月
2007年 01月
2006年 12月
2006年 11月
2006年 10月
2006年 09月
2006年 08月
2006年 07月
2006年 06月
2006年 05月
2006年 04月
2006年 03月
2006年 02月
2006年 01月
2005年 12月
2005年 11月
2005年 10月

フォロー中のブログ

リンク

最新のトラックバック

検索

その他のジャンル

ファン

記事ランキング

ブログジャンル

画像一覧